版元からの発送が遅れていたImmortal Performances(カナダ)の4枚組CD(正確にはCD-R)をようやく入手しました。1950年2月5日のモーツアルトプログラムが、今まで未発であったハフナーも含め初めて3曲すべて聞けました。その他の収録曲は1941年11月9日のレクイエム(Wing CDと同演奏)、1946年3月10日の協奏交響曲(BWSほかと同演奏)、1941年11月16日のピアノ協奏曲22番、ここまでがニューヨークフィルとの演奏で、その他フィレンツェ5月音楽祭管とのプラハ(1954)、パリのORTFとのアイネ・クライネ(1956)が収められています。ただし既発の曲目も、レクイエムのトロンボーンのミスや交響曲40番の第4楽章再現部の約2秒の音飛びなどについて、ワルターの他音源(明記なし)を用いた独自の編集が行われたと解説にあります。また聴感的には、既発の盤に比して音量の不自然な変動が修正され明瞭度が増していると感じますが、何かしら微妙な加工臭を感じなくもないと思いました。それが一番感じられるのはレクイエムのソロイストたちの声で、オケの音を鮮明に聞かせる反面で、声は張りが失われている(特にソプラノのスティーバー)ように感じました。従来から知られる交響曲40番の音飛びは、エアチェックに使用された33回転ディスクの盤面上の小さな異物かキズが原因と思われ、従来のCLSのLPで聞くと音飛びの発生箇所の手前から約2秒周期でプツ音が2回聞こえ、3回目のプツで音飛びするはずの所で1小節半の奇妙なテープ編集が行われている(YTのgoodmanmusicaさんの音源と同じ)のですが、今回のCDでは最初のプツ音が出始める箇所から数小節に渡って他音源に置きかえられており、音質変化は隠しようもありませんが、演奏の連続性ではあまり違和感はありません。ハフナー交響曲は今回が初発売ですが、冒頭から通風音のようなバックグラウンドノイズが聞こえ、録音も鮮明とは言い難く、聴き進むにつれてワルターのハフナーならでは味付けに親近感を覚えますが、この曲の最良の演奏・録音とは言い難いというのが正直なところです。この録音についてのみ、解説書に復刻に関するテクニカルコメントが全く書かれていないのも残念です。
また総体的に言えることですが、今回のCDの音源は、初発売を除いてすべて従来盤と大元は同じ物と思われ、期待していた1950年2月5日の演奏会も新音源ではないようですので、ワルターのモーツァルトのライブものとしては、録音クオリティの面で入手すべきかをよく検討されるのがよいと思います。個人的にはCLSのLPでの刷り込みもあって、交響曲40番とピアノ協奏曲(フィルクシュニ―の不思議な魅力)の演奏は気に入っています。万人向きと思えるのは、(40年代としては)録音がよく演奏も感受性豊かな協奏交響曲あたりかと思います。
最後に4枚目のCDに収められているコメント・インタビューの録音は初発売で貴重であり、内容的にも非常に興味深いと思います。内容は英国の批評家N.Cardusのワルター賛、ロッテ・レーマンのワルター回想の録音が2種(内容的に一部重複)、オレゴン大学の音楽学部学部長R.M.Trotterによるロッテ・ワルター・リントのインタビュー(1962)、同じ学部長によるワルター本人のインタビュー(1960)です。とくにワルターとワルターの長女とのインタビューは、それぞれ長さ20分以上におよぶもので、しかも現存する他の多くのインタビュー録音のような、よそ行きの脚本臭の少ない素の姿のインタビューであるので、二人の音楽観、家族や人生観などが、マイクの前での用心深い言動にも関らずダイレクトに綿割ってくるように思います。